
自然破壊の警鐘と未来への期待が表れた優しい物語
『ウルフウォーカー』(2020)の感想、解説をしていきます!
『ウルフウォーカー』(2020)の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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メッセージ性 |
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おススメ度 |
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『ウルフウォーカー』(2020)の作品情報
製作年 | 2020年 |
原題 | Wolfwalkers |
製作国 | ルクセンブルク、アイルランド、アメリカ |
上映時間 | 103分 |
ジャンル | アニメ |
監督 | トム・ムーア/ロス・スチュワート |
脚本 | ウィリアム・コリンズ |
主要キャスト | オナ―・ニーフシー(ロビン)
エヴァ・ウィッテカー(メーヴ) ショーン・ビーン(ビル) |
『ウルフウォーカー』(2020)の概要
アイルランドの歴史や神話を題材にした「ブレンダンとケルズの秘密」「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」で連続してアカデミー長編アニメーション部門にノミネートされたトム・ムーア監督とアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」が、前2作に続くケルト3部作の3作目として手がけた長編アニメーション。アイルランドのキルケニーで伝えられてきた、眠ると魂が抜けだしオオカミになるという「ウルフウォーカー」を題材に描いた。中世アイルランドの町キルケニー。イングランドからオオカミ退治のためにやって来たハンターを父に持つ少女ロビンは、森の中で出会った少女メーヴと友だちになるが、メーヴは人間とオオカミがひとつの体に共存した「ウルフウォーカー」だった。魔法の力で傷を癒すヒーラーでもあるメーヴと、ある約束を交わしたロビン。それが図らずも父を窮地に陥れることになってしまうが、それでもロビンは勇気を持って自らの信じる道を進もうとする。
「映画.com」より引用
『ウルフウォーカー』(2020)アイルランドにおけるオオカミの存在
眠ると魂が抜けだしオオカミになるという伝説を基に作られた本作。
オオカミはアイルランドでは人間よりも強く崇高なものであるとされていました。
そんな中、イングランドを含む他のヨーロッパ諸国ではオオカミは害獣として扱われ、次々に駆逐されたそうです。
アイルランドでは1786年に最後の狼が殺されました。
イングランドからアイルランドに来たロビン父娘は、いわゆるよそ者で、オオカミを狩るハンターとしてアイルランドに来ました。
この構図はそのままイングランドとアイルランドの対立を表しています。
その後ロビンはウルフウォーカーであるメーヴと出会い交流するうちにオオカミを狩ることに疑問を持ち始めるのです。
『ウルフウォーカー』(2020)の感想、舞台背景
日本では宮崎駿監督の『もののけ姫』で描かれたように、アイルランドの自然と文明の共存を描いたのが『ウルフウォーカー』です。
アイルランドと言えば、自然に囲まれた豊かな大地というイメージですよね。
国を象徴する国花はシャムロック(クローバー)ですからね。
美しい線画で描かれた本作のテーマはそれだけにとどまりません。
アイルランドの歴史とウルフウォーカーの伝説を融合し、現代社会で起きる様々な問題に警鐘を鳴らした作品と言えます。
テーマの一つが、イングランドによるアイルランドの侵略です。
アイルランドで暮らす人々の多くはカトリックとして知られています。
アイルランドがイングランドに支配され、カトリックであるアイルランドに対し、プロテスタントに改教するように強いたのです。
本作の護国卿は、オリバー・クロムウェルという人物をモデルにしているそうです。
当時9割の住民がカトリックでしたが、オリバー・クロムウェルがカトリックに対する刑法を作り、これによりカトリックは公職に就くことも選挙権が得られることもなかったそうです。
今でもものすごく嫌われている人物なのだとか。
オオカミ(自然)と共存しようとしているアイルランドに対し、イングランドは森を焼き払い畑を作り、家畜や農作物を作らせ奪おうとしていたのですね。
ロビンは最初、オオカミを狩ることは素晴らしい仕事だと信じていたけれど、メーヴと心を通わせるうちに、疑問を持ち始め、人間の勝手でオオカミを追い出すなんていけないと考えるようになります。
『ウルフウォーカー』は少女の友情物語としても秀でた作品なんです。
幼くして母親を亡くしたロビンと、人間に母親を捕えられたメーヴ。
色々なしがらみがある大人と違って、二人はいとも簡単に人種(?)の壁を越えて信頼し合える関係になります。
ロビンの父親とメーヴの母親が夫婦になったというラストからは、自然と文明の共存は可能であるというメッセージが込められているように感じました。
『ウルフウォーカー』(2020)まとめ
CG技術が進んだ今、ウルフウォーカーのアニメーションはとても斬新に感じました。
豊かな森は美しく温かく、イングランドに占領された町はとても堅苦しく居心地が悪く描かれており、色彩もこだわっていることが分かります。
映像だけでなくもちろん音楽もこだわっていて、『アナと雪の女王2』で素晴らしい歌声を披露したノルウェーの歌手“オーロラ”が”Running With The Wolves”という曲を本作の為に再録音したそうです。
アイルランドを愛し、アイルランドを誇りに思っていることが伝わる『ウルフウォーカー』ですが、世界中の人が共感できる作品になっています。