
出だしで物語の全てが分かっちゃう。あと一捻りあったら...。
オススメ度 ★★☆☆☆
Contents
『ビバリウム』(2019)の作品情報
製作年 | 2019年 |
原題 | Vivarium |
製作国 | アメリカ、ベルギー、アイルランド、デンマーク |
上映時間 | 97分 |
ジャンル | サスペンス、ホラー |
監督 | ロルカン・フィネガン |
脚本 | ギャレット・シャンリー |
主要キャスト | ジェシー・アイゼンバーグ(トム)
イモージェン・プーツ(ジェマ) ジョナサン・エイリス(不動産屋/マーティン/ヘンテコ押し売り野郎) アイナ・ハードウィック(男) |
『ビバリウム』(2019)の感想
前半10分ぐらいは「これから一体何が起きるのだろう?!」とワクワクが止まらなかったけど、冒頭にアップで登場するカッコウの托卵に全てが詰まっている感じでした。
カッコウの托卵とは
ご存じの方も多いと思いますが、カッコウは自分でヒナを孵したり育てません。
産卵する前に自分の子どもを育ててくれる仮親の巣を探すのです。
親鳥の留守を狙い産卵し、いち早く生まれたカッコウのひな鳥は、仮親の卵を全て落としてしまいます。
仮親は気づかずにせっせと餌をやり続けます。
一羽なので餌を存分にもらったカッコウは、およそ3週間で成長し、とっとと巣立っていきます。
なんたる残酷な!
ネタバレ感想

(C)Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film
ホラーでもサスペンスでもないでしょ。
ギュッと短くして「世にも奇妙な物語」みたいにすればよかったと思います。
長くなると観ているうちに「なんで?」とか「どうやって?」とかいう疑問がどんどん出てきてしまうから。
その疑問に答えがあればいいんだけど、おそらくないんです。
監督からすれば「誰とかそれとか、目的とか、そういうことじゃないから」って感じでしょうか。
夢のマイホームに憧れたカップルの哀れな末路。
エイリアンの仮親となって、エイリアンを育てて死にましたとさ。
大量消費社会への警笛と言われているみたいですが、私は「家」と「家庭」に対する監督の意地悪な見解を見せられたような気がしました。
「ヤンダー」という場所は?
ヘンテコ押し売り野郎というあだ名をトムにつけられた不気味な不動産屋に「理想的な家がある」と連れていかれた場所は「ヤンダー」という住宅街。
適当に内覧して帰ろうとしていたカップルは、なぜか「ヤンダー」からどうやっても元の場所に戻ることはできません。
まるで出口のない迷路。
周りには同じ家が数えきれないほど立ち並んでいるけれど、人が住んでいる気配がない。
「ヤンダー」では物音もしない、風も吹かない、食べ物の味もない。
ここはエイリアンの巣ってところでしょうかね。
タイトルの「ビバリウム」というのは“生物本来の生息環境を再現した飼育・展示用の容器”という意味だそうです。
段ボールの中の赤ん坊

(C)Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film
「ヤンダー」では、生活に必要なものはいつの間にか家の前に置かれる段ボールに入っていて、いらなくなったもの(残飯)もその段ボールに詰めて家の前に置いておけば、いつの間にか誰かが持っていくシステムのようです。
ある日の段ボールには赤ん坊が入っていました。
「この子を育てたら返す」というメッセージと共に。
彼らには「どこの誰かわからない赤ん坊(エイリアン)を育て上げなければならない」というミッションが課されるのです。
完全なる托卵。
100日で少年にまで成長する男の子は不気味で不快。
お腹が空いたらひな鳥のように体中から声をあげる。
二人の事をじっくり観察し、彼らがとった行動を、そのまま彼らの前で披露します。
うへー。すっごく気分が悪い。
私の好きなシーン
イモージェン・プーツ。
素晴らしい女優です。
トムが一生懸命庭に墓穴を掘り続ける間、ジェマは別の角度から解決しようと試みるんです。
誰かから受け取ったノートを持ち帰った男の子。
誰からもらったかは口止めされているみたいだけど、知りたい!
だってそいつの正体が分かったら元の場所に帰れるかもしれないもの。
そこでジェマちゃん閃いちゃって。
「ものまねごっこしよう!」と持ち掛けるのです。
ものまね大好きボーイは嬉々として数々のものまねを披露していきます。
温まったところでジェマが「今日あった人のものまねして!」と男の子に言います。
バカなのか純粋なのか、男の子はものまねを始めるのですが、、、
それは、喉のあたり、胸から喉にかけて、なんかカエルみたいに膨張していくという「外見ものまね」でした。
今までのものまねとパターン違いすぎやんか。
明らかに怪物。
ノート渡したやつ怪物。
その時のジェマの絶叫シーンが素晴らしかったです。
絶望以外の何物でもないものね!
というわけで「へレディタリー」のトニ・コレット、「ミッドサマー」のフローレンス・ピューと並ぶ絶叫クイーンが爆誕しました。
『ビバリウム』(2020)考察
素朴な疑問:彼らの目的とは
素朴な疑問ですが人間界に進出(?)するために人間に育ててもらってるみたいだけど結局奴らは何がしたいわけ?
人間を滅亡させたいの?
トムとジェマが育てたエイリアンは1年しないうちに成人したということは、この種族は成長がめちゃ早いのよね?
だから死ぬのも早い。
たくさんのエイリアンが育てれられているように思ったけど、結局早く成長しても早く死ぬから、奴らがどんどん増殖していく!ていう恐怖はないよね?
その辺が腑に落ちなかった。
それを含めて「不条理」と言われればそれまでだけど。
マイホームは必要なのか
この映画を観て、監督が言いたいことはたくさんあるんだなぁと思いました。
ありすぎてとっちらかってるなぁとも思いました。
現代社会では「家を持つ=幸せ」ではなく、むしろ「家を持つ=地獄」ということを伝えたいのでしょう。
1つの場所に縛られるために家を買うなんて馬鹿げている。家は墓場だ。
というメッセージが込められていると感じました。
女性と男性の役割
トムは皮肉めいた冗談が上手な面白い人ですが、ヤンダーに来てからは口数も少なく庭に穴を掘るだけの人間になってしまいました。
これは「男性=外で仕事」ということを表しているのだと思います。
一方ジェマは誰に言われるでもなく家で料理を作ったり、男の子を寝かしつける。
「女性=家庭」ということを表しています。
監督は「古い慣習に従わなくていいんだぜ」と言いたいのです。知らんけど。
そういえばトムは庭師だったからつるはしやスコップを車に積んでいたけれど、他の人たちはどうやって自分のお墓作ったんだろうね。
庭師という設定をやめて、段ボールに入っていたスコップを使って墓穴を掘るという流れの方が観客も納得できそうだけど。
『ビバリウム』(2019)まとめ
夢のマイホームを探すカップルがたどり着いたのは「エイリアン育成」をするビバリウム。
「育てれば解放」と言っておきながら、育て終わった親は死ぬ運命という悲劇。
不条理やなー。
「マイホームなんて持たなくていいって。子育て?やめとけやめとけ」という監督の熱いメッセージが込められた本作。
その考えに同調はできませんが、ジェシー・アイゼンバーグとイモージェン・プーツの魅力で最後まで飽きることなく観ることができました。