
冒頭に映る馬の美しさでノックアウトされた。真実に物語を注ぐクロエ・ジャオ監督の手法が冴えわたる。
オススメ度 ★★★★★
Contents
『ザ・ライダー』(2017)の作品情報
製作年 | 2017年 |
原題 | The Rider |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 104分 |
ジャンル | 西部劇 |
監督 | クロエ・ジャオ |
脚本 | クロエ・ジャオ |
主要キャスト | ブレイディ・ジャンドロー(ブレイディ)
ティム・ジャンドロー(ティム) リリー・ジャンドロー(リリー)
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『ザ・ライダー』(2017)のあらすじ
大怪我を負ったカウボーイが新たなアイデンティティや生きる意味を見いだすまでの物語を、モデルとなった人物が主演を務め映画化したヒューマンドラマ。アメリカ中西部のサウスダコタ州。カウボーイの青年ブレイディは、事故で頭部に大怪我を負ってしまう。ロデオ復帰への捨てきれない思いと後遺症との間で葛藤しながら、自分の生きる意味を探し求めるブレイディだったが……。主人公のみならず、彼を取り巻く登場人物にも本人たちを起用。中国出身の新鋭クロエ・ジャオが監督・脚本を手がけ、第53回全米映画批評家協会賞と第28回ゴッサム・インディペンデント映画賞でいずれも作品賞を受賞した。
※映画.comより引用
『ザ・ライダー』(2017)の感想
ネタバレ感想
2021年現在、賞レースを賑わせている『ノマドランド』(2020)のクロエ・ジャオ監督作品。
『ノマドランド』は傑作です!そして『ザ・ライダー』もまた傑作なのです!
『ノマドランド』を観る前に観ればよかった。
『ザ・ライダー』も『ノマドランド』同様、感想を言葉にすることが難しい。
なぜなら圧倒的な自然に打ちのめされてしまうから。
ささやくような風、自分たちしか存在していないのではないかと思うような闇夜の草原、一面を照らす月、水平線の彼方へ落ちていく夕日。
伏し目がちなブレイディは自分の想いを語ることはほとんどない。
でも彼の目が全てを物語っている。
目的を失ったまま生きていくことは、どれだけ過酷だろう。
幼いころからロデオで生きていくと決まっていた。
それなのに、その夢が、当たり前の日常が手のひらからすり抜けていくまま止めることが出来ないなんて。
それでも夢を持たない私にとって、彼はとても眩しかった。
『ザ・ライダー』で、彼が人生の大きな決断を下した瞬間を私たちは目撃する。
重い障害を負った兄貴分のレインはブレイディに「夢を諦めるな」と伝える。
ブレイディの夢は幼いころに抱いていたものから変化する。
それでもガスやアポロに乗って大地を駆け抜けた時に感じた風がどれだけ素晴らしいものなのかは、変わらずにあり続ける。
ドキュメンタリーに限りなく近いフィクション
監督のアプローチが面白い。
『ノマドランド』でも本当のノマドが出演していましたが、本作は主役まで本物のカウボーイです。
ブレイディの馬の調教や扱いが素晴らしいはず!
主役のブレイディ曰く、本作は真実7、フィクション3の割合だそうです。
真実の中に私的な物語を注ぎ込むクロエ・ジャオ監督の手法が冴えわたっています。
ブレイディ・ジャンドロー
本作の主人公であるブレイディを演じたのは本物のロデオライダーであるブレイディ・ジャンドロー。
クロエ・ジャオ監督の長編デビュー作『Songs My Brothers Taught Me』(2015)の撮影時に知り合ったそう。
寡黙で感情を押し殺しているように見える彼が、人生の不条理さに絶望し、行き場のない怒りを友人との遊びのレスリングで爆発させたシーンはとても人間的でした。
口を殆ど開かないつぶやくような話し方や、儚い希望や深い絶望を映し出す彼の目。
本物だからこそ成し得た表情なんだろうけど、いつまでも彼をこの目で彼を追っていたいような気持になりました。
『ザ・ライダー』(2017)
馬は走れなくなったら死ぬしかない。
では目的を失った人間は??
人間と動物の違いは、自分だけの人生ではないということ。
人は生きているだけでその存在価値がある。
生きているだけで誰かを支えている。
理屈ではない。
ブレイディの決断は新たな夢に進むもう一つの道であると願う。