
この作品のテーマはタブーか、それとも多様性か。
『ロスト・ドーター』(2021)の感想、解説をしていきます!
『ロスト・ドーター』(2021)の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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ジェシー・バックリー度 |
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おススメ度 |
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『ロスト・ドーター』(2021)の作品情報
製作年 | 2021年 |
原題 |
The Lost Daughter |
製作国 | ギリシャ・アメリカ・イギリス・イスラエル合作 |
上映時間 | 121分 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | マギー・ギレンホール |
脚本 | マギー・ギレンホール |
主要キャスト | オリヴィア・コールマン(レダ・カルーソ)
ダコタ・ジョンソン(ニーナ) ジェシー・バックリー(レダ・カルーソ) ピーター・サースガード(ハーディ教授) エド・ハリス(ライル) ポール・メスカル(ウィル) |
『ロスト・ドーター』(2021)の概要
海辺の町を訪れたひとりの女性。近くの別荘に滞在する若い母親の姿を目で追ううちに自らの過去の記憶がよみがえり、穏やかな休暇に不穏な空気が漂い始める。
Netflix公式ホームページより引用
『ロスト・ドーター』(2021)のキャストについて考察
ジェシー・バックリー/若かりし日のレダ
アイルランド出身の俳優。
私の推しです!!
『ジュディ 虹の彼方に』でジェシーの魅力にハマりました。
彼女が以前から明言していた"尊敬する俳優"「オリヴィア・コールマン」と早々に、素晴らしい作品で共演できたことを私も嬉しく思っています!
本作ではオリヴィア・コールマン演じるレダの若いころを演じています。
イントネーションや見た目が違うのに、二人が同一人物だと違和感なく観ることが出来るのは、オリヴィアとジェシーの演技力が半端ないからでしょう!
子どもを愛している眼差し、追い詰められて何かを諦める表情、自分自身を取り戻して生き生きとした表情すべて素晴らしかったです。
『ワイルド・ローズ』では主演だったし美しい歌声も披露していましたが、今回のレダ役の演技が彼女の真骨頂なんじゃないかと思います。
とはいえ今後も話題作(サラ・ポーリー監督作、フランシス・マクドーマンド、クレア・フォイ、ルーニー・マーラ共演作『Women Talking』や、アレックス・ガーランド監督作『Men』)に出演するので、これからも違った面をどんどん見せてくれることでしょう!
ポール・メスカル
ドラマ『ふつうの人々』に出演し、人気を博したポール・メスカル。
次回作にはジョシュ・オコナー共演の『ザ・ヒストリー・オブ・サウンド』があります。恋愛ものですよ、観なきゃ!
他にもシアーシャ・ローナン共演の『Foe』など続々と話題作に出演が決定しています!
『ロスト・ドーター』(2021)の感想
感想:人が死なないサスペンス映画
ラストの解釈によって違ってきますが、本作は「人が死なないサスペンス映画」と言えるのではないでしょうか。
アガサ・クリスティー著作の「春にして君を離れ」のような。
小説の内容は、昔の友人にばったり出会った主人公が、友人からの言葉をきっかけに、自分が目を背けていた現実を目の当たりにする。
もはや目を背けることが出来なくなった時に、彼女はどういった行動を取るのか。という内容でした。
本作との共通点は「主人公が余暇に自分の人生を顧みた」という点。
本作の主人公レダは、自分でもわかっているように自分勝手な人間です。
過去に娘たちを捨てたという自分の行動に罪悪感を感じて記憶に蓋をしていたが、休暇先で出会った若い母親を過去の自分と重ねることで、当時の記憶が少しずつよみがえっていく。
そしてはっきりと記憶が蘇ったのちに、母親であることから逃れて自由になり、その年月が「最高だった」と喜びと哀しみが混ざった表情で言い放つその姿。
オリヴィア・コールマンの演技が凄すぎて何も言えません。
自分自身理解が出来ていないというようなあの表情。
言い得ぬ恐怖と悲しみが鑑賞者にまとわりつくような。
それでいて同じ女性としてレダを抱きしめたくなるのです。
彼女は正直で不器用だっただけなのではないでしょうか。
そしてそんな自分を理解してもらえるかもしれないという一筋の光であったニーナにも理解されず、腹部を刺されるというラスト。
ニーナもまた、自分を理解できる人に出会えたと思っていたんだろうな。
憧れの眼差しがビシビシ伝わってきましたもんね。
結局二人の気持ちは交わることなく、死を目前にしたレダは子どもたちとたわいのない話をする。
オレンジの皮をむきながら、子どもたちとのつながりを感じながら。
彼女たちを愛していたと気づいたラストは感動的でした。
(ラストは人によって解釈が違うと思いますが、私はレダは死ぬんだろうと思いました)
母親になると個性が奪われる
「何を犠牲にしても母親は子どもを愛する」ということに対し、真正面から向き合う作品でした。
子どもを愛する以上に自分を愛してはいけないのだろうか。
本作はそんな経験をしたことがある女性に「それでもいいじゃない。」と、そっと肩を抱いてくれるような作品だと感じました。
子育て放棄を肯定する作品ではありませんが、女性は子どもを産んだことで「一人の人間としての個性」を奪われるべきではないというメッセージが伝わりました。
現代社会の在り方によって起きた悲劇を描いた作品です。
よくこのテーマを描いた、描き切ったと思います。
大好きなジェシー・バックリーが出ているから観たんですけど、想像をはるかに超える作品でした。
タイトルについて
The Lost Daugter というタイトルなので、鑑賞前は「娘のうち一人がネグレクトによって死んでしまう話なのかな」と勝手に想像していましたが、そうではありませんでした。
私なりの解釈ですが、母親から愛情をもらえずに育ったレダが、母親からの唯一の愛情である証の人形を壊してしまったことで、自分の子ども時代が失われたということなのかなと思いました。
想像力を働かせすぎでしょうか...。
行方不明になったニーナの娘がきっかけで自分を振り返ることになったので「ロスト・ドーター」というタイトルになったと考えたほうが自然かもしれません。
母親としての自分、娘としての自分
レダが母親に対して敵意にも似た気持ちを抱いていることが分かるシーンがいくつかあります。
無教養な母親から、愛されずに育ったのかもしれません。
母に反発する為、母親のようにならないと決めて必死で勉強してきたのでしょう。
そして娘たちを愛情たっぷりに育てたかったのでしょう。
その両立が一人では困難になった時、彼女は投げ出してしまった。
そういった過去を振り返りつつ、母親を見限ったつもりだったけれど、見限ったのは母親だったのかもしれないと気づいた。
子育てを終えたレダの休暇中に出会った育児に疲れた若い母親を見て、自身を振り返るという物語。
でももしかしたら自分が子育てしていたことだけではなく、自分が子どもだった時のことも思い出したのではないだろうか。
女性としての重圧
性的なシーンが、直接的にも間接的にも多く使われているように思いました。
騒ぐ男たちを注意するも女性だからバカにされる。
終始男性たちの視線が鬱陶しい。
ズレた気遣いと見え隠れする下心。
『ラストナイト・イン・ソーホー』では描けなかった、微妙で絶妙な男性を本作では描いています。
こういう息が詰まるような逃げ場のないような作品(褒めてます)こそ劇場で観たいのです。
『ロスト・ドーター』(2021)最後に
音楽も映像も、不安を掻き立てるカメラワークもすばらしく、作品にのめり込んで鑑賞しました。
信じられないぐらい素晴らしい演技を見せてくれる俳優たちと、難しいテーマでありながら観客を惹きつけることに成功したマギー・ギレンホールに拍手したい。
賛否両論あるであろうテーマなので、なるべくたくさんの人に観て欲しいです。
主人公に共感できないかもしれない。
でも自分の心の本当の奥底にある本心をのぞき込むことが出来れば、もしかしたらレダと自分に違いなどないと思うかもしれない。
ロスト・ドーター Netflixで観るにはこちら