
本気で命を懸ける姿が愚かしい
『最後の決闘裁判』(2021)の感想、解説をしていきます!
『最後の決闘裁判』(2021)の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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視点の違い度 |
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おススメ度 |
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『最後の決闘裁判』(2021)の作品情報
製作年 | 2021年 |
原題 |
The Last Duel |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 153分 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | リドリー・スコット |
脚本 | ベン・アフレック、マット・デイモン、ニコール・ホロフセナー |
主要キャスト | ジョディ・カマー(マルグリット)
マット・デイモン(ジャン・ド・カルージュ) アダム・ドライバー(ジャック・ル・グリ) ベン・アフレック(ピエール伯爵) |
『最後の決闘裁判』(2021)の概要
簡単なあらすじ
愛する妻を強姦された騎士が、強姦した元友人を被疑者として裁判を起こしたけれど、両者の言い分がいつまでも変わらないから判断は神に委ねようということで「決闘裁判」をすることになるという物語。
決闘裁判は正式に認められたもので、国王が見守る中行われるのです。国王がにやにやしながら見守るのです。神の名のもとに行われるものですが、国王の娯楽です。
決闘に敗れた者の言い分は却下され、さらに裸にして馬に引きずられ、見世物にされるようです。
もしカルージュ(騎士)が負けてしまえば、妻のマルグリットも偽証罪ということになり、裸にされ生きたまま火あぶりの刑です。(カルージュはこのことを妻に話さなかった)
それぞれの思いを胸に、命を懸けた闘いが始まります。
事件までを三者それぞれの視点で映すことで、真実が浮かび上がるという構成となっています。
『最後の決闘裁判』(2021)の感想
もの凄く繊細で巧みなセリフと演出。
ラストには唸るしかなかった。
勇ましい男たちが命を懸けて戦う姿がとてつもなく滑稽に見えるように作られているのだから。
迫力ある映像に息をのみながら、醒めた目で「頼むから二人とも死んでくれ」と願う。
こんな体験をさせてくれる映画って他にあっただろうか?!
鑑賞するまでどんな映画か分からなかったけれど「愛する妻の為、命を懸けて戦う男」の物語ではありません。
男のつまらんプライドをかけた男による男のための戦いなのです。
いや、被害者は??
そうです、これがリドリー・スコットや製作陣が伝えたかった事なんですね。
これは男たちが作った男の為の世界で、初めて声をあげた女性の物語。
男にしか尊厳がないとでも思ってんのか、あほかほんまに。
↑これを映画のサブタイトルにしたいほどです。
脚本はベン・アフレックとマット・デイモンの親友二人と、ニコール・ホロフセナーです。
作品へのアプローチも素晴らしく、男性パートの脚本はベンとマットが、女性パートはニコールが担当したそうです。
各章で視線や表情の受け取り方の違いが明らかになります。
人間は見たいものしか見えないと言いますからね。
ル・グリの勘違いぶりは恐ろしいです。
しかしこうして「恋は盲目状態」を客観視できる機会もなかなかないので、好きな相手にアプローチするときは男女関係なく参考になると思います。
ラストの命を懸けた闘いは、とてつもなく迫力があり思わず前のめりになったり目を背けたり、映像に引き込まれます。
と、同時に「なんだこの寒々しいどうでもいい戦いは...」という気持ちが芽生えるのです。
真実なんて関係なく、闘いの目的が男同士のプライドにすり替わっているからです。
カルージュが勝利したときのマルグリットの虚ろな表情を見て心から同情し、その後のマルグリットについての言及で、私はようやくほっとすることが出来ました。
どんな手腕だよリドリー・スコット!
天才だよ!知ってるよ!
『最後の決闘裁判』(2021)それぞれの視点から見えてくるキャラクター像
ジャン・ド・カルージュ
いわゆる真面目系くず。
国王への忠誠心は断トツトップ!
火が付いた矢を放たれて逃げる兵士を見て「なぜ逃げるんだ?国王の為に戦うぞ!」と言って死をも恐れず国王に使える騎士なのです。
凄く立派、立派なんだけど世間知らずのおぼっちゃまは周りが見えていない。
無駄な戦いをして兵士たちを無駄死にさせ疲れさせていることに気づかない。
自分と周りの境界線がないというか、「世界中の人間は価値観全部俺と同じ」みたいな、危険な程の周りの見えなさです。
ややこしいことにカルージュはボンボンだから、人を貶めたりこびへつらうことが出来ません。
ようするに空気が読めない嫌われ者。
女性を子どもを生むだけの道具として考えている。(この当時は当然の事のようですが)
父親が死んだら長官の職に就くと思っていたが、成り上がったル・グリによってその座を奪われる。
さらにマルグリットとの婚姻時の約束として贈られた土地も奪われ、ル・グリへの憎しみが止まらない。
そんな中妻マルグリットへの暴行事件が起き、ル・グリに「決闘裁判」を申し込む。
マルグリットの為ではなく自分のプライドの為。というよりむしろ日ごろのル・グリへの怒りを直接ぶつけるチャンスと思っただけのように見えます。
ジャック・ル・グリ
享楽主義者。
身分が低かった為勉強に励み、その才能で成り上がる。
見た目も良く頭がいいル・グレは伯爵に気に入られる。
カルージュと違って信じるものなんて何もない空っぽ男でナルシスト。
女はみんな俺に夢中、カルージュの妻のマルグリットも俺に夢中。
だから誰もいない日を狙って愛を交わそうとする。
マルグリットは淑女だから逃げるふりをしているが、靴を脱いで誘ってきた。
断じて強姦ではなく合意の上で、激情にかられた二人の行為だと思っている。
本気でそう思っている。
ル・グレ目線の2章を見れば、マルグリットとの出会いの場面や、食事の場面、カルージュとマルグリットがダンスしながらこちらを見る場面、どれも彼女が彼を誘っているように見えていることが分かります。
怖いよ、ホント恐ろしいよこのナルシスト。
マルグリット・ド・カルージュ
当時としては珍しく読み書きができる聡明な女性。
父の命令でカルージュと結婚するが、夫は冷たく不器用で社会性も社交性もなく、惨めな結婚生活を送っている。
しかし彼女は良き妻で、そんなどうしようもない夫に懸命に尽くします。
夫はバカなのに決してバカにしません。
ル・グリにアプローチされまくりますが、「彼の事は信用できない」とマルグリットは相手にしません。
なのにル・グリに勘違いされ、夫の留守中に乱暴されます。
当時の女性はこのようなことがあっても決して訴えることはなく泣き寝入りをしていましたが、彼女は立ち上がり声をあげるのです。
悪評が立ち、友人も離れていき、裁判ではとても答えたくないようなプライベートなことまで聞かれるのです。
被害者がさらに被害にあうという。
さらにバカな夫は決闘裁判を申し込みますが、負けた時は夫が死ぬだけではなく、妻も偽証罪となり裸で木に吊るされ生きたまま火あぶりの刑になることは妻には伏せていました。
ようやく授かった子どもを親なし子にしてしまうかもしれない。
最初から知っていれば他の女性のようにしていたのに...。
こうしてマルグリットの運命は、2人の男性の手に委ねられるのです。
「決闘裁判」というシステムは本当に信じられないけど、妻を自分の所有物として扱い、意見を聞かずに彼女の命を勝手に危険にさらす筋肉バカをどうにかしてください神様。⇐これは私の意見です。
『最後の決闘裁判』(2021)まとめ
この映画の素晴らしいところは、今までであればカルージュ主役のヒーローものとして描かれるだろう作品を、「女性軽視」に対して強烈に「No」を突きつける作品に仕上げたということです。
それも監督、脚本(男性パートのみ)が男性なんです。
女性だけではなく男性がこの物語に共鳴して、こんな愚かなことがあったということ、600年以上前の話にもかかわらず現代にも通じる問題であることを訴えているのです。
そのことがとても心強く感じました。