
「老いること」を体験できます。たとえ体験したくなくても!
『ファーザー』(2020)の感想、解説をしていきます!
『ファーザー』(2020)の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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体験度 |
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おススメ度 |
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『ファーザー』(2020)の作品情報
製作年 | 2020年 |
原題 |
The Father |
製作国 | イギリス、フランス |
上映時間 | 97分 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | フロリアン・ゼレール |
脚本 | クリストファー・ハンプトン、フロリアン・ゼレール |
主要キャスト | アンソニー・ホプキンス(アンソニー)
オリビア・コールマン(アン) ルーファス・シーウェル(ポール) イモージェン・プーツ(ローラ) |
『ファーザー』(2020)の概要
名優アンソニー・ホプキンスが認知症の父親役を演じ、「羊たちの沈黙」以来、2度目のアカデミー主演男優賞を受賞した人間ドラマ。日本を含め世界30カ国以上で上演された舞台「Le Pere 父」を基に、老いによる喪失と親子の揺れる絆を、記憶と時間が混迷していく父親の視点から描き出す。ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニーは認知症により記憶が薄れ始めていたが、娘のアンが手配した介護人を拒否してしまう。そんな折、アンソニーはアンから、新しい恋人とパリで暮らすと告げられる。しかしアンソニーの自宅には、アンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が現れ、ここは自分とアンの家だと主張。そしてアンソニーにはもう1人の娘ルーシーがいたはずだが、その姿はない。現実と幻想の境界が曖昧になっていく中、アンソニーはある真実にたどり着く。アン役に「女王陛下のお気に入り」のオリビア・コールマン。原作者フロリアン・ゼレールが自らメガホンをとり、「危険な関係」の脚本家クリストファー・ハンプトンとゼレール監督が共同脚本を手がけた。第93回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、助演女優賞など計6部門にノミネート。ホプキンスの主演男優賞のほか、脚色賞を受賞した。
映画.comより引用
『ファーザー』(2020)のキャストについて考察
アンソニー・ホプキンス/アンソニー
サー・アンソニー・ホプキンス!
彼の名を世界中に知らしめたのは映画『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士役ですね。
私も最近再鑑賞したのですが、圧倒的カリスマ性と迫力と知性が凡人中の凡人の私にも分かる素晴らしい演技でした。
今まで数々のアンソニー・ホプキンスの演技を観てきましたが、個人的には『ファーザー』での演技が最も素晴らしいと思いました。
認知症の人の目から見たものがスクリーンに映されるので、なにが本当なのかがわからず、自分はいったいどうなったんだと不安と疑心暗鬼に苛まれます。
ふにゃふにゃの地面に立っているような、覚めない夢をいつまでも見ているような感覚。
「老いることはどういうことなのか」私たちに体験させてくれました。
それにしてもよくこの役を演じようと思ったなぁ。
監督がアンソニー・ホプキンスの為に書いたということが彼の胸に響いたのでしょうか。
自身が老いる中で、この役を演じられるアンソニー・ホプキンスは本当に偉大です。
アンソニーの感じる恐怖と哀しさが痛々しいほど伝わりました。
オリヴィア・コールマン/アン
オリヴィア・コールマンは『女王陛下のお気に入り』でアカデミー主演女優賞を受賞した女優です。
『フリーバッグ』でも嫌味な継母(ゴッドマザー)を軽妙に演じていましたが、がっつりとした演技を観たのは今回が初めてなので彼女の演技力に度肝を抜かれました。
そりゃまあアンソニー・ホプキンスの独壇場ですけど、彼女がいなけば成り立たないだろうと思います。
私が今最も注目している女優「ジェシー・バックリー」と共演した「The Lost Daughter」は来年公開だそうですよ。(当然日本での公開は未定...)
アンはアンソニーの長女。
父の症状が悪化したことで訪問介護を依頼するけどアンソニーの悪態により次々に辞めていってしまう。
仕事をしながら愛する父を献身的に支えるけれど、自分自身の生活も守らなければならない中、アンはある決断を迫られる。
イモージェン・プーツ/ローラ
私は『ビバリウム』でイモージェン・プーツに魅了された一人です。
今回は夢か幻かという難しい役を、はつらつと演じていました。
ローラはアンソニーのお気に入りの娘でしたが、ローラは若いころに事故で命を落としています。
認知症が進行しているアンソニーにはそのことを認識できず、介護士としてローラを登場させています。
『ファーザー』(2020)のネタバレ感想
スクリーンから一瞬たりとも目を離すことが出来なかった。
この感覚ってなんだろう。
老いることへの恐怖?忘れてしまう(忘れられてしまう)哀しみ?
これはアンソニーが体験した1日の話なのか?
認知症であるアンソニーが何か体験する度、フラット(家)の小物が変化します。
病院にあった椅子が出てきたり、ローラが描いた絵がなくなったり。
「妙なことが起きている」という台詞に含まれているのはアンソニーが感じている「恐怖」。
恐れは怒りとしてしか出すことができないし、その怒りさえも記憶から失われてしまう。
確かなものが何一つない。
「時計さえあれば時間が分かるんだ」と言うけれど、どこにも時計は見当たらない。
ある時は娘の夫が付けているし、ある時はバスルームに隠している。
アンソニー目線で見ると、起きていることの時間軸があやふやだから「時計」で正気を保っておきたいと考えたのだろう。
正気を保っているときは介護士に辛辣な態度を取ったり、自分は大丈夫だと娘のアンに強がっていたアンソニー。
ついには自分が誰かすら分からなくなり恐怖が押し寄せる中、ただひたすら母に会いたいとすがるのです。
この時のアンソニーの姿が悲しくて悲しくて。
自分と言う存在は確かなものだし、それはなくなるわけではないけれど、この映画を体験した今は確信が持てない。
自分が信念をもって生きて築き上げたことは、こんなにも脆く崩れてしまうのか。
物凄い映画を観たという気持ちと、これから私はどうすればいいのかという焦燥感。
でも私は『ファーザー』を観て、生きることに目的を持ち、1日1日を大切に過ごそうと思いました。
コロナで自粛が続く中、ワクワクすることがまるでなくなっているけれど、「9月からブロードウェイが全面営業!」という明かりが灯るようなニュースを聞くと、おのずと胸が高鳴り、かつて行きたかった場所やしたかったことをもう一度考えてみようという気になるのです。
そしてそれを必ず実行する。
自分の人生の終わり方なんて分からないし、今考えても仕方がない。
人はいつか人生を終えるけれど、大切なのはどう生きたかなんだろう。
気になったこと:登場する男たちと介護士
途中で出てくる男たちはアンの夫であったり、現在入所しているホームの介護士です。
彼らに辛らつな言葉をかけられ、時には顔を平手打ちされたりします。
2度も別の人物に「あなたは一体いつまで私たちをイラつかせるんです?」と言われる。
あのシーンはいったい何を表しているんだろう。
本当に誰かに言われたことなのか、もしくはうすうす自分が認知症だと感じていることで出てきたセリフなんだろうか。
介護士による虐待を描いているのかもしれない。
後から気づいたのですがイモージェン・プーツ演じる介護士は介護施設の介護士と話し方も話す内容も同じですね。
『ファーザー』(2020) フロリアン・ゼレール監督のこれから
まるで舞台を観ているようだ。
と思ったら、世界各国で上演された舞台が元になっていたのですね?!
しかも2012年に。
当時観た人びっくりしただろうな。
物凄い体験ができた観客が心からうらやましいと思います。
日本でも2019年東京芸術劇場で橋爪功主演で上演されていたそうです。
観たかった...。
しかしみなさん、フロリアン・ゼレール監督の戯曲「父」(本作)は、「母」、「息子」と合わせた3部作だそうです。
2021年夏、東京芸術劇場で上映される予定だそうです!
コロナが落ち着いてたら観に行きます!
東京なんて遠すぎて行けないと悲しんでいるそこのあなた!
朗報です。
今回のようにゼレール自身の手で映画化が予定されているそうです。
すっかりゼレールファンとなった私は舞台と映画の違いを楽しむべくどちらも体験しようと目論んでいます。
どのような物語なのか分かりませんが、今回のように自分がまるでその登場人物になったかのような体験ができる作品になるのではないでしょうか。