
将来有望な女性の人生を潰す、将来有望な男と社会に物申す
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)の感想、解説をしていきます!
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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復讐達成度 |
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おススメ度 |
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『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)の作品情報
製作年 | 2020年 |
原題 | Promising Young Woman |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 113分 |
ジャンル | クライム、スリラー |
監督 | エメラルド・フェネル |
脚本 | エメラルド・フェネル |
主要キャスト | キャリー・マリガン(カサンドラ(キャシー)・トーマス)
ライアン(ボー・バナム) アリソン・ブリー(マディソン) ラバーン・コックス(ゲイル) |
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)の概要
Netflixオリジナルシリーズ「ザ・クラウン」でチャールズ皇太子の妻カミラ夫人役を演じ、テレビシリーズ「キリング・イヴ Killing Eve」では製作総指揮や脚本を担当するなど、俳優・クリエイターとして幅広く活躍するエメラルド・フェネルが、自身のオリジナル脚本でメガホンをとった長編映画監督デビュー作。ごく平凡な生活を送っているかに見える女性キャシー。実はとてつもなく切れ者でクレバーな彼女には、周囲の知らないもうひとつの顔があり、夜ごと外出する謎めいた行動の裏には、ある目的があった。明るい未来を約束された若い女性(=プロミシング・ヤング・ウーマン)だと誰もが信じていた主人公キャシーが、ある不可解な事件によって約束された未来をふいに奪われたことから、復讐を企てる姿を描く。主人公キャシーを「17歳の肖像」「華麗なるギャツビー」のキャリー・マリガンが演じ、「スキャンダル」「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」や「スーサイド・スクワッド」で知られる女優マーゴット・ロビーが製作を務めている。2021年・第93回アカデミー賞で作品、監督、主演女優など5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。
『映画.com』より引用
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)のクイアポイント
なんとNetflixドラマ『オレンジ・イズ・ニューブラック』でソフィー役で出演していたラバ―ン・コックスがカフェの店長ゲイル役で出ています!
めちゃくちゃ面白いドラマなので未見の方は是非ご覧ください!
そして彼女は初めて「エミー賞」にノミネートされたトランスジェンダー女性なのです。
すごく頼れる姉御って雰囲気がありますね。
キャシーが唯一心を開くことができる人物です。
ラストは悲しいけれど、ゲイルがいてくれたから救われたという人も多いのではないでしょうか?
ありがとう、ゲイル。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)の見どころ
♡キャシーの服のセンス💀
怒りと悲しみをかわいい色で彩った『プロミシング・ヤング・ウーマン』
鑑賞者は、キャシーは30歳になる女性にしては着る服やメイク、マニュキアなど、どれも子どもっぽいことに気が付くはず。
彼女の人生は、ニーナの事件以降止まったままであることが分かります。
もう二度と時計の針を動かす気がなかったキャシーですが、かつての学友ライアンと出会った事で、時は動き始めるのです。
💀キャシーの復讐方法♡
冒頭から泥酔したふりをしたキャシーは、自称「いい奴(ナイスガイ)」という男にお持ち帰りされる。
彼女の同意なしに、ただ性的に満足するために服を脱がせ始めるナイスガイ。
もうろうとしながらも「なにやってるの?」と聞くキャシー。
ナイスガイにとって泥酔女はモノですから返事なんてせずにいそいそと事を進めようとします。
そして絶妙なタイミングで「何やってるんだって聞いてるんだよ」と、しらふである事をばらすのです。
その後シーンは変わります。
乱れた服、赤く染まったシャツでふらふらと歩いているキャシー。
「こ、殺したのか?!殺人鬼の話か?!」とビビる私。
しかしシャツを赤く染めたものは血ではなくケチャップでした。
そうやねん、男をビビらせた後腹ごなしにホットドッグ食べてん、キャシー。
とまぁのっけから色々予想が裏切られるんですよ。
コメディなのかサスペンスなのか、はたまたラブロマンスなのかカテゴライズできないのです。
そしてキャシーの復讐はとっても上品(?)なやり方です。
バイオレンスではなく心に留まって離れないトラウマを植え付けるという方法なのです。
すごく上品だよね!
♡監督の意図💀
ニーナに起きた悲劇をあなたならどう受け止めるでしょうか。
男たちは(楽しんで)傍観し、同性であり本来味方になるべき友人や学長は、まるでニーナに人格がないかのようにあしらったり事件を忘れています。
そんな無関心で鈍感な人々に対し、キャシーは過激な方法で自分事として考えられるように仕向けるのです。
「そんな事されなくても私には心があるし思いやりを持って向き合うわ!」と思う私たち観客に対して、エメラルド・フェネル監督は「本当にできるの?」と容赦なく突きつけてきます。
みんながニーナに起きたような事件に対して蓋をしていた罪悪感や自己欺瞞。
それを思いっきり晒したいみたいです、この監督は。
アカデミー5部門ノミネートも大納得の本作ですが、練りに練られた脚本が特に素晴らしいです。
カメラワークも色彩、音楽やキャスト、全てにこだわりが見られます。
私のような目で見えるものすら見逃すような観客にも「キャシーは天使である」という意図が分かるようなシーンがいくつかありました。
優しい、監督!
彼女の復讐というか世直しは、使命なんでしょうね。
使命であり運命。
ライアンと出会ったことで、彼女は人生の選択を迫られ変化が訪れようとするけれど、結局より強い気持ちで使命を全うすることになるのです。
そう思うと悲しいラストではなく、「やったぜキャシー!」と拍手を送れるような気がします。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)の感想
キャシーの復讐は完璧に成し遂げられた。
観客からすると、キャシーの復讐を応援しているので絶対に死なない方法で成し遂げて欲しかった。
でもニーナの件で「前途有望な男性」は、社会に守られていて正攻法では復讐はできないということは分かっています。
冒頭からずっとキャシーのことを見ていたはずなのに、なぜか彼女の気持ちはわかっていなかったみたいで、上映後は悲しくて仕方なかった。
でも何日か経ったときふと思ったんです。
全てキャシーが作り上げた復讐だったんだって。
「前途有望だった女性」が考え抜いた最後の復讐です。
あれだけ頭がいいキャシーがうっかり殺されるわけないですよね。
殺されに行ったんですよね、復讐のために。
あまりにもキャシーを応援していたから見えていなかったけど、キャシーの視点から見れば完璧なラストだったんですね。
殺したアルと、その友人の慌てっぷりが笑えるぐらい滑稽で(でもやってることは残虐で残酷)「こいつら本物のくずやな」と思っていたけど、すべてまるっとお見通しだったわけです。
でも何といっても本作の素晴らしい所は「ライアン」という普通の男の存在です。
彼は本当にナイスガイで、心からキャシーのことを愛している。
そんな彼はニーナの事件に自分も傍観者として関わったという裏切り、そして「子どもだったから」と言い訳して今もなんとも思っていなかったという裏切り。
そこからの逆切れ、警察とのやりとりで自己防衛しまくってもう一度裏切った。
見事です、ライアン。
忘れていたニーナの事件にこれからも嫌でも関わらなければいけなくなりました。
彼にはどのような未来が待ち受けているのでしょうか。
復讐2:ウォーカー学部長・・・ニーナの訴えを聞かず、将来有望な男性であるアルを守った。
復讐3:グリーン弁護士・・・ニーナの加害者アルの弁護士。アルが有罪であることを知っていながら無罪にした。
復讐4:アル・モンロー・・・ニーナをレイプした犯人。麻酔科医として成功し、結婚を目前に控えている。
復讐5:ライアンを含むニーナ事件に関わった人たち・・・ニーナがアルにレイプされているのを笑って見ていた。
なーんにも悪くないもん
そんな風に考える傍観者(ライアン)に鉄槌を下す映画でした。
ラストでライアンに届いたキャシーからのメッセージは、私たち観客に宛てたメッセージだと思います。
この映画を観たことを決して忘れさせてくれない、そんな映画でした。
しかし殺されないと事件にならんとか最低な世の中ですね。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)まとめ
エメラルド・フェネル監督の才能が随所に散りばめられた作品を存分に楽しむことが出来ました!
カメラワークや色彩、音楽などこだわりぬいたことが分かります。
特にブリトニー・スピアーズの"Toxic"をあんな恐ろしくアレンジするというアイデア!
予告でも使われていたけど、本編で流れた時のぞわぞわ感。
完璧やん!!
キャシーを演じたキャリー・マリガンもいい意味で今までのイメージを大きく覆してくれて、こんな女優だったのかと驚かせてくれました。
鑑賞後はただただ女性の無力さに悲しくなりました。
でも時間がたつにつれ、あの方法しかなかったにせよ、キャシーの復讐が成し遂げられたことを喜ぶことができるようになりました。
一人でも多くの人に『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観て欲しいと願っています。