完璧なフェミニストでありながら反フェミニストを訴えるシュラフリー怖い。
『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』を見た感想を述べていきます。
※本作は実話をベースにしていますが、会話などはフィクションです。
『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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自分の無知さに落ち込む度 |
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おススメ度 |
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『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』の作品情報
製作年 | 2020年 |
原題 | Mrs.America |
製作国 | アメリカ |
話数 | 全9話 |
ジャンル | ドラマ、歴史 |
脚本 | ダーヴィー・ウォーラ― |
主要キャスト | ケイト・ブランシェット(フィリス・シュラフリー)
ローズ・バーン(グロリア・スタイネム) サラ・ポールソン(アリス・マックレイ) ウゾ・アドゥーバ(シャーリー・チザム) マーゴ・マーティンデイル(ベラ・アプツーグ) エリザベス・バンクス(ジル・ラッケルズハウス) トレイシー・ウルマン(ベティ・フリーダン) |
『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』の概要
1970年代アメリカ。男女が対等ではいられなかった時代。伝統的な性別による役割分担を訴えるフィリス・シュラフリーは、ERA(男女平等憲法修正条項)の議会通過を目指すフェミニストたちの運動に反対し、主婦たちを巻き込んだ反フェミニズム運動を展開する。
相対するERA賛成派、グロリア・スタイネム、シャーリー・チザム、ベティ・フリーダン、ベラ・アプツーグらが牽引するフェミニズム運動は大きな盛り上がりを見せ、1972年、ERAは連邦議会で可決される。しかし、成立に必要な38州の批准をめぐり、両者の対立は激しさを増していき……。WOWOW公式HPより引用
「ERA」とは
ERA・・・Equal Rights Amendment
合衆国憲法に男女平等を書き込む修正条項。
性差によって権利の平等が侵害されないことを求めた合衆国憲法に対する修正条項のことです。
実はアメリカは男女の平等は憲法で認められていないのです。
ERAが批准に達しなかった要因として、フィリス・シュラフリーという反フェミニズム活動家が知られています。
本作は憲法における男女平等を求める団体と、それを阻む保守派の団体の話です。
フェミニストの訴え
「ERA」を批准させるべく尽力した多くの女性活動家がいました。
・性差をなくし、全ての人間が平等な社会を作る(性別による雇用賃金の格差撤廃や性別による職業の限定の撤廃)
・同性婚の承認
・中絶禁止法の撤廃など
男が!女が!ということではなく、性差のない社会を作りたい。
職業を選ベる社会、女性も男性と同様の賃金がもらえる社会、結婚や出産を選ぶことが出来る社会、中絶をする権利が女性にある社会。
反フェミニストの訴え
・同性婚反対
・共同トイレ反対
・女性兵士の戦闘任務参加反対、など
自分たちの娘が徴兵されてもいいのか!男性と女性が同じトイレを利用するなんて危険すぎる!男性が働いてくれているから、彼らに生活を保障され安心して子どもを育てることが出来ているのに女性の特権を奪わないで!!
ということが言いたいのです。
女性が自ら望めば軍に入ることが出来る社会を作ろう(男女平等の雇用)というERA推進派の訴えを歪めて解釈し「女は全員徴兵される」と主婦の人たちに訴えたのです。
頭がいいのか悪いのか!?
批准に達しなかったということは、彼女たちのやり方は間違っていなかったのですね。
1970年代の大統領と政党
本作の舞台となる1970年代のアメリカ合衆国の大統領は以下の通りです。
・第37代 リチャード・ミルハウス・ニクソン 1969-1974 共和党
・第38代 ジェラルド・ルドルフ・フォード・ジュニア 1974-1977 共和党
・第39代 ジェームズ・アール・カーター 1977-1981 民主党
・第40代 ロナルド・ウィルソン・レーガン 1981-1989 共和党
アメリカの二大政党
共和党は民主党と並ぶ、アメリカの二大政党の一つです。
現在では保守派は共和党、リベラルな民主党として認知されています。
トランプ元大統領が共和党であることは周知の事実ですが、奴隷解放に尽力したリンカーンもまた共和党なのですよ!
政党の指針てそんな真逆になるもんかな?!
当時の民主党は、奴隷制を維持するという考えだったようです。
1960年代後半から、黒人公民権に否定的な立場をとり、元の基盤であったアメリカ南部での支持を再び得るようになったという流れで保守派としての共和党が出来ていったようです。
『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』のキャラクターから見たアメリカを考察
ケイト・ブランシェット(フィリス・シュラフリー)
反フェミニスト活動をするフェミニスト。
上品でエレガント、でも信念がないフィリス・シュラフリーをケイト・ブランシェットが演じたから成り立ったような気がします。
絶妙な演技です。
圧倒的です。
目で、仕草でさりげない差別や、抑えこんだ感情を見せてきます。
とても応援したくなるような人物ではありません。
男性に働いてもらい、家庭を守る事こそ女の幸せと声高に訴える反フェミニスト。
しかし観ているうちに、彼女は完全なる「フェミニスト」であることが分かります。
頭がよく、政治に興味があり、家の事は義理の妹や家政婦に任せっきりの働く女性。
自分自身も気づいているんですよ。
不謹慎かもしれないけど、その矛盾が面白いと思いました。
ものすごい精神力だと思いますよ。
自分の中にある真実を捻じ曲げるなんて普通の人間にはできません。
ずっと上品で美しいフィリスですが、なんといっても最終話のパーティーでのスピーチの姿が神々しい!!
その神々しさの後、プライドがボロボロにされるシーンが出てくるのですが、この落差をこれでもかというほど見せつけるのですね。
ラストのシーンのための神々しさ!
高々と持ち上げておいて地面にめり込むほど突き落とす。
うーん、素晴らしい演出。
レーガン大統領誕生に一役買い、ついに政界進出か?!と思いきや、そうはならないんですねー。
フェミニストたちを怒らせるわけにはいかないんだという理由で。
彼女の存在は今や保守派の「共和党」からも脅威になってしまったというわけ。
傷心の彼女に夫がかけた言葉は「夕食は?」。
...回し蹴ろうか?胸ぐら掴んでお前を窓の外に投げ出そうか?
フィリスも、ERA推進派の女性たちも結局男性に利用されて幕を引きました。
サラ・ポールソン(アリス・マックレイ)
フィリス・シュラフリーの右腕的存在。
本作は史実をベースにしているけどアリスは実在の人物ではありません。
アリスがいなければ一方的な物語になりかねなかったですね。
近くでフィリスを見続けていたからこそ、ちょとした違和感から反フェミニスト運動をやめ、自立した女性として生きることを決めたアリスはすごく勇気がある人物です。
ローズ・バーン(グロリア・スタイネム)
ジャーナリスト、活動家。
1972年に「ミズ」(Ms)を創刊。
自身の経験もあり、「中絶合法化」を訴え続けている。
女性解放運動家であるベラやベティらと共に「ERA」の批准を推進。
ウゾ・アドゥーバ(シャーリー・チザム)
アフリカ系アメリカ人女性初の連邦議会下院議員となったシャーリー・チザム。
民主党の大統領指名候補者予備選挙に勝つ見込みがないことがわかっていながらも出馬する。
マーゴ・マーティンデイル(ベラ・アプツーグ)
米国下院議員。
弁護士であり活動家。
常にかぶっている帽子がトレードマーク。
カーター大統領から全国諮問委員会の委員長を任命されて務めたが、大っぴらにカーター大統領の予算案を批判したことで解雇させられた。
ERAの批准、性差別の撤廃に力を注いだ。
余談ですが、グロリア・スタイネムの活動を描いたジュリアン・ムーア主演の映画『グロリアス』(原題)では、ベット・ミドラーがベラ役を演じるそうです!
より辛らつに、よりコミカルに演じてくれることでしょう。
トレイシー・ウルマン(ベティ・フリーダン)
ジャーナリスト、作家。
全米女性組織(NOW)を設立。
全米女性政治連盟(NWPC)設立のメンバーだが、同性婚に対しては消極的。
雇用機会、賃金、昇進をめぐる男女差別の解消、人工妊娠中絶の自由化などを政府に呼びかけた。
『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』の感想
ベラが反フェミニストたちに放つ一言が全てを表しています。
(シュラフリーは)立派なフェミニストよ
タイトルから分かるように、群像劇ではあるけれど主役はフィリス・シュラフリーです。
矛盾を抱えた反フェミニストのリーダーであるフィリス。
支配的で、野心が強く、心が欠けている人。
自らの矛盾すら見て見ぬふりをすることが出来る強靭な精神力。
彼女はどうしても手に入れたかった“名声”を、ついに手に入れることはできませんでした。
そのずば抜けた行動力、スピーチで聴衆に耳を傾けさせる力は、最後には自分に刃を向けた状態にしてしまったのです。
力が大きくなりすぎて、レーガン大統領政権で官僚になることが出来なかった。
彼女の信念のない信念が、アメリカの平等社会を阻み、自らの夢すら遠のくという皮肉。
反フェミニストのリーダーであるシュラフリーを軸に話を進めるという構成は素晴らしいと思います。
グロリア・スタイネムやベティ・フリーダン、ベラ・アプツーグなど信念と情熱があるフェミニストたちは全員とても魅力的です。
溢れんばかりのパワーと責任感を感じます。
まさに今見るべきドラマです!
私たちも行動できることがある!