
これ以上の孤独はあるだろうか
『ルース・エドガー』(2019)の感想、解説をしていきます!
Contents
『ルース・エドガー』(2019)の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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自身の良心、偏見を試される度 |
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おススメ度 |
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『ルース・エドガー』(2019)の作品情報
製作年 | 2019年 |
原題 |
Luce |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 110分 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | ジュリアス・オナ― |
脚本 | ジュリアス・オナ―、J・C・リー |
主要キャスト | ケルビン・ハリソン・Jr.(ルース・エドガー)
ナオミ・ワッツ(エイミー・エドガー) ティム・ロス(ピーター・エドガー) オクタヴィア・スペンサー(ハリエット・ウィルソン) |
『ルース・エドガー』(2019)の概要
アフリカ、エリトリア出身のルース・エドガーは文武両道に秀でた17歳の高校生。彼は幼少期に戦場へ駆り出された過酷なトラウマを克服し、自由の国アメリカで希望を象徴する存在へと成長した。そんなルースは、ある課題のレポートをきっかけに、同じアフリカ系の女性教師ウィルソンと対立し、順風満帆の日常が大きく揺らぎ出す。ルースが危険な過激思想に染まっているのではというウィルソンの疑惑は、ルースの養父母である白人夫婦エイミーとピーターの胸にも疑念を生じさせていく。そして、奇妙な事件がウィルソン教師の身に降りかかることに。はたしてルースは本当に“完璧な優等生”なのか、それとも世間を欺く“恐ろしい テロリスト”になり得るのだろうか......。
Filmarksより引用
『ルース・エドガー』(2019)の感想
自分の心の汚れが浮き上がる
気楽に観てはいけない映画でした。
人の「良心」というものがどれだけ脆い物なのか、人はどれだけ偏見を持っているのかということを嫌と言う程あぶり出す映画でした。
もうめちゃくちゃ試されてる。
表情や言葉をそのまま受け止めることが出来ず、その裏にある本当の意味を探ろうとして自分の偏見に気づかされる。
とても緻密に計算された演出で、ハリエットの周りに起きることがルースの仕業であるという確信は誰も持てないのです。
養父母ですらルースに対して疑念を持っています。
表面上「信用しなくては」という義務感があり、その間でもがいています。
そしてルースは「結局僕は誰からも信用されていない」という自身の言葉を裏付けるように、彼らの「良心」の背後に隠れた感情をあぶりだしていくのです。
自分が否定されていることを確信するために。
この作品に唸らされたのは、ルースの表情がどのようにもとれるというところ。
「絶対やってる」ようにも見えるし「絶対やってない」ようにも見える。
ルースは一人で走っている時にしか本当の感情を出しませんというか出せません。
「模範的な黒人」でいなければいけない。
そうでなければ排除される。
ルースは長い間我慢していたんだと思います。
けれど養父母だけでなく、同じ黒人の先生にその役割を強いられることが我慢できなかったのでしょう。
彼は他の黒人とは違う。
それは特別感や優越感などではなく、どうしようもなく孤独で、他の人といる時は自分が特異な存在であることを強烈に思い知らされるのだと思います。
彼はアフリカのエリトリアという国で少年兵として生きていた時は自身のアイデンティティがあった。
アメリカ人に引き取られてからは名前もアイデンティティも奪われ、周りの人間が用意した道しか歩くことが出来なかった。
そしてそれはこれからも続く。
あがいてもあがいても。
ルース=光
ハリエットとルースの直接対決の場面は見ごたえがありました。
そのシーンでハリエットは「私たちは同じ箱の中にいる」と言います。
その箱にはわずかな光しか届かない、と。
本作の主人公ルースの本名は作中では明かされません。
発音が難しく、何度トライしても養母が言えなかったそうです。
そこで元の名前を捨て「ルース」と新たに名づけられました。
「ルース」とは「光」という意味。
図らずもルースはアメリカに来たことで「光」を当てられる存在になることが運命づけられたのかと思います。
『ルース・エドガー』(2019)まとめ
ナオミ・ワッツは幅広い役を演じるからか、過小評価されているような気がしますけどめっちゃくちゃ演技上手いですよね!
たくさんの愛情をかけて育てた息子の知られざる顔を見てしまった母親。
自分たちしか彼の味方はできないと心を決めたエミリーだけれど、ラストのルースのスピーチを聞いている表情が素晴らしかったです。
結局ルースは仮面をかぶったまま、本当の自分を語ることはなかった。
そしてそのスピーチを聞いたエイミーもまた、これからは自分も仮面をかぶったまま生きていくことになるということが分かったのでしょう。
エイミーはルースの絶望的な孤独に気づいてあげられたのでしょうか。
黒人は頑張らなければ認められない。
そうやって黒人の地位を向上しようとしていた人たちがいて今があるのだけれど、これからはどんな人種であれありのまま受け入れられる世界にしていかなくては。
人種差別は次の段階に向かっていると、本作を見て感じました。