
※性暴力描写あり
かつて男性に奪われた女性(達)の夢の浄化
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)の感想、解説をしていきます!
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)の評価
項目 | 評価 |
知名度 |
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配役/キャスト |
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ストーリー |
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物語の抑揚 |
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シスターフッド度 |
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おススメ度 |
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『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)の作品情報
製作年 | 2021年 |
原題 |
Last Night in Soho |
製作国 | イギリス |
上映時間 | 115分 |
ジャンル | サスペンス |
監督 | エドガー・ライト |
脚本 | エドガー・ライト、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ |
主要キャスト | トーマシン・マッケンジー(エロイーズ)
アニャ・テイラー=ジョイ(サンディ) マット・スミス(ジャック) |
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)の概要
「ベイビー・ドライバー」のエドガー・ライト監督によるタイムリープ・ホラー。ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学したエロイーズは、寮生活になじめずアパートで一人暮らしを始める。ある時、夢の中できらびやかな1960年代のソーホーで歌手を目指す美しい女性サンディに出会い、その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディを追いかけるようになる。次第に身体も感覚もサンディとシンクロし、夢の中での体験が現実世界にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズ。夢の中で何度も60年代ソーホーに繰り出すようになった彼女だったが、ある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。さらに現実では謎の亡霊が出現し、エロイーズは徐々に精神をむしばまれていく。エロイーズ役を「ジョジョ・ラビット」「オールド」のトーマシン・マッケンジー、サンディ役をNetflixの大ヒットシリーズ「クイーンズ・ギャンビット」のアニヤ・テイラー=ジョイがそれぞれ演じる。
映画.comより引用
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)のキャスト
トーマサイン(トーマシン)・マッケンジー
トーマシンが可愛いだけで永遠に観ていたくなるといっても過言ではない。
ささやくように、そしてたどたどしく話す姿は全鑑賞者を魅了すること間違いなし!
タイカ・ワイティティ監督作『ジョジョ・ラヴィット』(2019)で初めてトーマシンを目にした時、彼女のスター性を確信しました。
2021年はM・ナイト・シャマラン監督作『OLD』、ジェーン・カンピオン監督作『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が公開されました。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に関してはなぜ出演したのかわからない程の端役ですけれど。
撮影が出身地のニュージーランドだから?
今後の予定としてはBBCドラマ「Life After Life」、オリヴィア・ワイルド監督作品で、米国女子体操チームを金メダルへと導いたケリー・ストラッグを演じた『Perfect』が控えています。
2021年時点で21歳。
まだまだあどけなさが残る彼女にエロイーズ役はぴったりです。
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アニャ・テイラー=ジョイ
本当はアニャがエロイーズ役だったとか?
確かに彼女の演技力は半端ないのでエロイーズ役も違和感なく演じられたでしょう。
でもカリスマ性抜群のサンディをアニャ以外の誰がやれるでしょう?
本作ではダンスや美声も披露しており、アニャの魅力満載の映画です。
ただアニャ演じるサンディに感情移入しすぎると心が苦しくなってしまいます。
公開待機作はたくさんあります!
アニメ映画『スーパーマリオ』ではピーチ姫(声)、『マッドマックス怒りのデスロード』のフュリオサのスピンオフ作品『Furiosa』ではタイトルロールを演じます。
更に超豪華キャストのデヴィッド・O・ラッセル監督作品にも出演。
アニャの存在が一躍有名になった『ウィッチ』を監督したロバート・エガース(『ライトハウス』)の最新作にも出演です!
アニャの勢いは止まらない!!
『クイーンズ・ギャンビット』でアニャの魅力にハマった私としては、嬉しい限りです。
マット・スミス
ドラマ『ザ・クラウン』でフィリップ殿下を演じたマット・スミス。
『ラストナイト・イン・ソーホー』ではちょいワルな雰囲気がとてつもなくカッコよかったです。
あのダンスシーンったら!!
最低のクズ野郎だったけど。
公開待機作としてジャレッド・レト主演の大作『モービウス』が控えています。
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)考察
サンディとジャック、エロイーズのダンスシーン
冒頭、エロイーズが60年代にタイムリープし、「カフェ・ド・パリ」でうっとりするような、夢を見ているかのようなダンスシーンがあります。
あのシーンは実はほぼCGではなく、実はアナログな方法で長回しで撮影されています。
サンディが躍っている時は、エロイーズはしゃがんで次のシーンの場所まで動き、エロイーズが躍っている時はサンディがしゃがんで動くという!
魅惑のダンスシーンはこちら↓↓↓
個人的にこのシーンを見ただけで『ラストナイト・イン・ソーホー』は私の2021年に観た映画でベスト3に入りました。
ソーホー地区とは
ロンドンのシティ・オブ・ウエストミンスター地区の一角に位置しています。
1980年以降、高級レストランや服飾のお店が立ち並ぶおしゃれなファッション街へと大きく変貌したようです。
かつては風俗店や映画館が立ち並ぶ歓楽街であり、カルチャーの中心地でした。
サンディのように夢を叶えるためにソーホーに行く若者は多かったようです。
そしてそういう場所には必ずいるのです。
夢を持った若者を食い物にするジャックのような人間が。
魅惑のダンスシーンでいやらしいおやじをぶん殴ってサンディの心を掴んだジャックですが、あれもやらせです。
音楽
60年代のイギリス音楽満載です。
しかし「ビートルズ」とか「ローリングストーンズ」といったメジャーな楽曲ではありません。
タイトルである「ラストナイト・イン・ソーホー」という曲や、主役と同じ「エロイーズ」という曲など、音楽と作品が密接していることが分かります。
『ベイビー・ドライバー』でカーアクションと音楽を見事に融合させたエドガー・ライト監督の手腕が光りまくりました。
※エドガー・ライト監督作品はこちら↓↓↓
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なんといってもアニャ・テイラー=ジョイが歌う「Down Town」は妖艶で魅せられます。
しかしサンディがストリップのようなダンスをしているシーンに使われたサンディ・ショーの『Puppet on a String』という曲を聴いたら気分が悪くなるので、サントラを聴こうという気にはなれませんでした。
エンドロールの風景
エンドロールで映し出されるのは無人のソーホー地区の映像。
静止画ではなく動画です。
無人の瞬間を切り取ったのではなく、コロナでロックダウンになった街を映しているのです。
このエンドロールが必要だったかどうかは私にはわかりません。
言いたいことが多すぎる気がして。
サンディの思いが現代に生きるエロイーズによって浄化されたという余韻に浸りたかったので。
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)の感想
女性が女性を救うシスターフッドを感じる映画でした。
無邪気なトーマシン・マッケンジーと、色気と野心と自信ムンムンのアニャ・テイラー=ジョイ。
この2人を見るだけで、ワクワクします。
だからこの映画は大好きです。※鑑賞後1週間経ったら、そうも言いきれなくなりました。違和感が拭い去れないからです。
トラウマになりそうなシーンもあるのですが、冒頭のワクワク感は、他の映画ではなかなか感じることが出来ないものではないでしょうか。
エロイーズが初めて60年代の夢を見るシーンなんて歴史に残るんじゃないかという程美しくまばゆいのです。
監督は本作をタイムリープ・サイコ・ホラーと言っておりますが、私はタイムリープ・リベンジムービーだと思っています。
現代に生きる女性エロイーズが夢を掴むことで、サンディ(かつて男に食い物にされた女性たち)の恨みが晴らされるという復讐劇ですから。
本作のホラーの源は夢を抱いた女性を食い物にする男たち。
ロンドンでタクシーに乗ったエロイーズに「君のストーカー第1号になろうかな」と言っていた運転手の言動が、これからエロイーズが目にすることを示唆しているように思います。
日常的に起きる男性からの発言やいやらしい目つき。
この映画では鳥肌が立つほどその不快さを観客に味わわせます。
夢を叶えるため都会に出てきた若い女性の足元を見て、女性をお金で買った(買わせた)男たちがいることをエロイーズの目を通して観客に伝えています。
ただ憧れを妄信するのではなく、表があれば裏の面が必ずあるという事を監督は伝えたいのかもしれません。
男たちを殺したサンディと、サンディの心を殺した男たち。
一方的に加害者と被害者を決めつけることはできませんが、夢を餌にして女性を食い物にする男たちの存在を私は許せません。
煌びやかな世界の残酷な裏側を、私たちはたくさんの音楽やネオンを浴びながら知ることになるのです。
情報過多というか、監督の好きなものが詰まった作品なので、油断すると本筋を見失いそうです。
サンディを思うと胸が痛みますが、最後には鏡の中で笑顔のサンディを見ることが出来ました。
それはエロイーズが、それでもサンディを赦し、助けようとしたからだと思う。
ずっとエロイーズがサンディを見ていたけれど、ラストではサンディがエロイーズに向かって手を振り、双方向でつながるのです。
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)まとめ
2021年は『スワロウ』に始まり『ラストナイト・イン・ソーホー』で終わるという、数々の素晴らしい映画体験ができました。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』や『最後の決闘裁判』など、同じ女性として時に寄り添い、時に立ち上がる勇気をくれる作品に出会いました。
特に良いのは、数々の素晴らしい作品の製作(監督)が女性だけではないところです。
本作は、夢を抱いて都会に出た若い女性が憧れの地の闇を知るまで、そして夢破れた女性(たち)の恨みを浄化させるまでのお話。
『ラストナイト・イン・ソーホー』はフェミニズム映画でもありシスターフッド映画です。
それに音楽映画でもあり、タランティーノ作品のような映画愛に溢れた映画でもあります。
憧れに対する警告をする映画であり、若い女性が成長するまでの映画でもあります。
さらにコロナによって変わってしまった世界をエンドロールで見せつけるという、てんこ盛りムービーです。
かつて酷い目にあわされた女性を現代の女性が助けるというストーリーは、ファンタジーだけど切実なメッセージだと感じました。
過去に起きた痛ましい事件を時代のせいにせず、どうにかして助けたいと監督が考えた結果出来た作品なのかなと思います。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『イエスタデイ』のように、「もしこうだったら」という願いが込められている作品。
彼女たちの心のつながりやワクワクするような60年代のソーホー、是非映画館で体験して欲しいです。※女性は本作を観てしんどい思いをする人は少なくないと思います。覚悟してみなければいけない作品だと思います。意見がガラッと変わってすみません。主演の二人は大好きなんですけど、手放しで良い映画と言えなくなりました。