
圧倒的映像美で描く、制限からの心の解放
オススメ度 ★★★★★
Contents
『燃ゆる女の肖像』(2019)の作品情報
製作年 | 2019年 |
原題 | Portrait de la jeune fille en feu |
製作国 | フランス |
上映時間 | 120分 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | セリーヌ・シアマ |
脚本 | セリーヌ・シアマ |
主要キャスト | アデル・エネル(エロイーズ)
ノエミ・メルラン(マリアンヌ) ルアナ・バイラミ(ソフィ) ヴァレリア・ゴリノ(伯爵夫人) |
『燃ゆる女の肖像』(2019)の感想
18世紀の女性の立場
本作は「女性」に対する制限、彼女たちが選ぶしかなかった道を繊細に描いています。
舞台は18世紀のフランス。
現代人の私から見ると、当時の女性には信じられないぐらいの制限があります。
主人公のひとり画家のマリアンヌは、同じく画家の父親の職業を継ぐことを決めています。
マリアンヌは結婚することがないだろうと考えており、その選択ができるということから、自由な女性として描かれています。
しかし女性画家は描くものが限られているという「制限」がありました。
女性は男性のヌードを見ることも描くこともできません。
男性のヌード描けなくてもいいやんと思いますが、それはすなわち絵画の最も大きな題材である宗教画を描くことができないという「制限」を示しています。
その為女性画家が描く対象は静物画や肖像画に限られていました。
さらに言えば、歴史上では女性画家は殆どいなかったとされていますが、実は名前が残っていないだけで、男性の名に隠されていたそうです。
同じくフランス19世紀に活躍した女流作家、シドニー=ガブリエル・コレットも、自身が書いた物語を夫の名義で出版することを余儀なくされていましたよね。
また、家を大きくするための政略結婚も当たり前。
エロイーズの結婚は避けては通れない道。
二人がどれだけ想い合っても結ばれることは叶わない運命なのです。
ここから感想
信じられないぐらい美しい映像。
ヒリヒリするような互いの視線。
前半では交わらなかった視線は、心が通うにつれ変化する。
これは悲恋だ。
だけど、愛する喜びを知った二人が共有した時間は永遠に存在し続ける。
例え離れ離れになって、二度と会うことがなくても、その恋はいつまでも燃え続ける。
そう思ったら私は救われました。
冒頭、正体を隠しながら肖像画を描くためにマリアンヌはエロイーズを盗み見るんですけど、ここからドキドキしっぱなしでした。
前半はマリアンヌの正体がばれないようにというドキドキ。
後半は二人の心が燃える瞬間が訪れるドキドキ。
無駄なシーンが全くなく、1ミリも目を離せませんでした。
鑑賞後、押し寄せる荒波のような感情と疲労感でぐったりしたけど、必ずもう一回観ようと心に決めました。
これは紛れもなく傑作!
本作では「最後の再会のシーン」を最大限に生かす為に、限りなく音楽を削っています。
音楽がないから、生活する人の足音や衣擦れの音、波の音や筆遣い、描いた線を消す音。
二人の溢れる気持ちから漏れる息づかいが全編に散りばめられています。
音だけで満たされるこの感覚を何といえばいいんだろう。
二人の思い出の曲を聴きながら、マリアンヌの視線を受けながら、エロイーズは決して振り向かなかった。
それは二人の恋を永遠に失わない為。
「振り向いて欲しい」と私は思ってしまったけど、エロイーズの思いに気づいて納得し、切なさに涙が溢れて止まらなくなりました。
同性の恋愛作品は悲恋で、どちらかが死んだり結ばれなかったりすることが殆どです。
悲しい結末と知っているから「もう一度観たい作品」にはなり得なかった。
でも本作は違います!
確かに二人の幸せを掴むことはできなかったけど、共犯関係のような、二人だけが分かる、二人の確かな愛の存在を印した作品があり、その燃える想いは決して消えないのだということが伝わるから。
「歴史が変わった」と信じる事ができる作品に出会えた喜びで胸がいっぱいになりました。
『燃ゆる女の肖像』(2019)花子の一番好きなシーン
好きなシーンがありすぎて困ってしまうぐらい見せ場の多い映画ですが、二人の恋が燃え上がった「燃ゆる女」のシーンが好きです。
ソフィが村の人に堕胎を頼みに行くシーン。
突然女性たちが歌いだし(鳥肌もの!)、焚火越しにマリアンヌはエロイーズを見つめる。
エロイーズのドレスに火が移ってから!そこから!!!
ね?
お互いの気持ちをずっと探るようにしてきた二人が遂に!!! ね?
『燃ゆる女の肖像』(2019)気になる人
ソフィは可愛い顔立ちで、まるで絵画から抜け出したようです。
演じたのはルアナ・バイラミです。
2001年3月14日、コソボ出身。7歳までコソボで過ごした。2011年、『Adèle's Choice』(未)で8歳のアルバニア人の生徒役でデビュー。その後、TVドラマやショートフィルムに出演、学園ミステリー『スクールズ・アウト』(19)では生徒役のリーダーを演じ注目を浴びる。2020年には『The Hill WhereLionesses Roar』(未)で監督デビューも果たしている。同年、セザール賞有望若手女優賞ノミネート。
「燃ゆる女の肖像」公式ホームページより引用
か、監督デビューまで?!
2021年1月8日公開の『ハッピー・バースデー』ではカトリーヌ・ドヌーブと共演しています!
『燃ゆる女の肖像』(2019)エロイーズが初めてキスしたいと思ったのはいつ?
二人が離れ離れになる日の前日、いつまでも明日が来ないようにとでも言うように、会話をする二人。
眠りそうになったエロイーズにキスするマリアンヌかわいい。
その中でエロイーズはマリアンヌに「初めてキスしたいと思った日のこと」を話します。
「いつなの?」というマリアンヌに「当ててみて」と。
結局エロイーズは答えなかったけど、エロイーズがオーケストラの楽曲四季の「夏」」という曲を弾いたときなんじゃないかなーと思います。
ラストのエロイーズのあの表情で「絶対そうやろ!」と確信しましたね。
切なすぎて死ぬかと思いました。
『燃ゆる女の肖像』(2019)まとめ

(C)Lilies Films.
2020年を締めくくるのに相応しい作品でした。
大げさではなく、この作品を観るために今まで映画を観てきたんじゃないかと思えるほどです。
エロイーズ役のアデル・エネルは自立心が強く制限を軽々と超えてきそうな芯の強さが見えてしまってミスキャストかもと思いましたが、ラストのロングショットの表情は圧巻です。
「後悔するより思い出して」
決して振り返らないエロイーズは、マリアンヌとの恋をいつまでも胸に灯し続けるのでしょう。
いつまでも私の心に残る作品になると思います。