
自己啓発と家族愛とアメリカの問題を凝縮した作品!
オススメ度 ★★★★☆
Contents
『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020)の作品情報
製作年 | 2020年 |
原題 | Hillbilly Elegy |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 115分 |
ジャンル | ドラマ、実話 |
監督 | ロン・ハワード |
音楽 | ハンス・ジマー |
主要キャスト | エイミー・アダムス(ベヴ)
グレン・クローズ(マモーウ) ヘイリー・ベネット(リンジー) ガブリエル・バッソ(J.D.ヴァンス) |
『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020)のあらすじ
名門イェール大学に通うJ.D.ヴァンスは、理想の職に就こうとしていたときに、家族の問題によって、記憶から消そうとしていた苦い思い出のある故郷へ戻ることを強いられる。
故郷で彼を待ち受けていたのは、薬物依存症に苦しむ母親ベヴだった。
幼いヴァンスを育ててくれた、快活で利発な祖母マモーウとの思い出に支えられながら、彼は自分の夢を実現するために、自分自身のルーツを受け入れなくてはならないことに気づく。
「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」 公式ホームページより引用
『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020)の感想

(C) Imagine Entertainment, Netflix
ヒルビリーってなあに?
本作のタイトルである「ヒルビリー」とはどいういう意味なのでしょうか?
無知な私は地名だと思っていましたが違いますよ!
「ヒルビリー」とは「山に住む白人」という意味で使われていたそうです。
18世紀に飢饉と迫害から逃れるため、移民としてアメリカにやってきたスコッチ=アイリッシュを指しており、他の地域の人たちと交流がなく、独自の文化を守る封鎖的な共同体のことのようです。
ジェニファー・ローレンス主演の『ウィンターズ・ボーン』は血のつながりも含め共同体が強烈でしたが、彼女もまたヒルビリーなんですね。
今では「田舎の貧しい白人」という意味で使われています。
他にも貧困白人層を指す言葉はいくつかあります。
「プア・ホワイト」「ホワイト・トラッシュ」「レッドネック」など。
蔑称(相手や第三者を蔑んでいう言い方のこと)にあたるので使っちゃだめよ!
Wikipedia(レッドネック)で調べたところ、特徴として挙げられるのは以下の通り。
・アクション好き
・10代で出産することが多く世代変わりが早い
・飲酒、喫煙好き
・大きなTシャツやムームーのようなものを着る
・個人主義
トランプ支持者としてのヒルビリー
保守的な人が多いヒルビリーは、共和党支持者が多いようです。
社会から助けてもらえず、自分たちが貧しいのは政府の責任だと考えている彼らは、分かりやすい言葉で自分たちの気持ちに寄り添ってくれるトランプ氏の熱狂的支持者となりました。
しかしトランプ政権でも生活は改善せず、失望した彼らの多くはトランプ離れを起こしたそうです。
『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020)感想

(C) Imagine Entertainment, Netflix
もっとマモーウに焦点を当てるべきだった。
なぜって、貧困による負の連鎖(暴力、薬物)を断ち切ろうと一念発起したのはマモーウだからです。
そしてマモーウを奮い立たせたのはJ.D.の姉のリンジーの一言です。
肺炎で倒れたマモーウは、面会に来た孫娘のリンジーから「(今の状況は)だれの責任なの?」と聞かれたとき、自分の人生を振り返り「自分の責任」だと考えました。
成績優秀だった娘ベヴは、今や男をとっかえひっかえし、そのたびに引っ越しをする生活。
病院で患者の薬をくすねてハイになりクビになり、看護婦の仕事を続けるため、(クリーンな)息子の尿を病院に提出するという落ちぶれよう。
幸せになるはずだった娘は、貧困と暴力にまみれた家庭によって堕落していった。
「ベヴをまともに育てること」に失敗した事実を認め後悔したマモーウは、J.D.には別の道があることを教える為、彼を引き取ることを決意します。
ここです!
本作の一番重要なところはここなのです!
マモーウが病室で過去を振り返る映像はちょっと陳腐に見えたけど、この葛藤と決断こそが本作の最も強いメッセージなのではないでしょうか。
違うかな、最も強いメッセージは家族愛についてなのかな。
でも私にはマモーウの決断が胸にずっしりときました。
厳しくて恐ろしいけど優しいマモーウはJ.D.を育てるにあたり、素晴らしい言葉を与えています。
「努力もせずにチャンスが来ると思うな」
自分の人生は自分の責任であるということをマモーウは教えてくれます。
それを聞くまでJ.D.は大人になったら母親のような暮らしをすると漠然と考えていたのではないかな。
そんなJ.D.にとって、環境や過去は関係なく、自分の力で道を切り開くという考えは目から鱗だったでしょう。
そして忘れちゃならない、姉のリンジー。
彼女もまた優しく利発な人間であることが言葉の端々から伝わります。
マモーウに対する「責任」の問いだけではなく、J.D.に「私をできないことの言い訳にしないで」という一言。
そして「家族を理由に自分の人生を犠牲にしてはならない」という台詞。
これが本当の優しさやで!とムネアツになりました。
書いてて思ったけど、なんか自己啓発本みたいな映画ですね。
マモーウを演じたグレン・クローズの演技は神がかっています。
怒っている時の目、J.D.が代数で100点を取った時の目、とにかく目が印象的です。
怒った時は骨格まで角ばってきたような気がしたほどですよ!
ベヴを演じたエイミー・アダムスも素晴らしい演技をしています。
だるだるの体型や、艶のない髪と皮膚。
天使のようにかわいい顔をしていると思った次の瞬間に鬼の形相になっている。
ジャンキーとして、子を愛する母として説得力があります。
主演女優、助演女優のノミネートは間違いなさそう。
いびつだけどしっかり愛情があって、普通じゃないけど普通の家族。
限られた時間でたくさんの情報を詰め込みながらも感動ドラマに仕上げたロン・ハワードの手腕はさすがですが、詰め込みすぎて主題がぼやけた感があったのは残念です。
『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020)気になる人
またもや出てます、ヘイリー・ベネット。
最近では『悪魔はいつもそこに』に出演していましたね。
めちゃかわいいけど1988年生まれの33歳(2020年現在)で、幼少期のJ.D.の姉役(おそらく17,8歳?)をやるとは!!
母親役のエイミー・アダムスと14歳差なので、成長したときのリンジーはしっくりきてましたけどね!
異食症の妊婦役を演じた『Swallow/スワロウ』が公開待機中です!
以下予告です。
(C) 2019 by Swallow the Movie LLC. All rights reserved.
ちょっと衝撃的すぎますな。
観たいけど観れそうにありません...。
2021年1月1日公開です!
『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020)まとめ
2020年は『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』など、故郷への思いとアメリカの抱える問題を提起する作品をいくつか観ることが出来ました。
私たちの知らないアメリカのもう一つの顔。
本作は家族に阻まれ、そして家族に支えられて未来に希望を持つことができたヒルビリーからのメッセージ。
負の連鎖を断ち切ることが出来た彼らはラッキーだったのかもしれません。
他のヒルビリーたちはどうなるのでしょう。
原作とは違って、本作ではヒルビリーの問題に焦点を当てたものではありません。
でも私は彼らの抱える問題の大きさがとてつもないことを知りました。
自分の人生に責任をもって生きることは、誰にでもできる簡単なことではありません。
ましてや周りの人間が未来に希望を持てず、状況を改善しようとしない人たちなら尚更難しいでしょう。
『ヒルビリー・エレジー』は、責任を他者に押し付けたり、失敗することを恐れて一歩踏み出せない人には大きな励みになる作品だと思います。
「過去や環境のせいにするな!未来は自分の手で掴むことが出来る」ということを教えてくれる映画でした。